百鬼園日記帖

百鬼園日記帖―内田百けん集成〈20〉 (ちくま文庫)

百鬼園日記帖―内田百けん集成〈20〉 (ちくま文庫)

美しいこと、悲しいこと、こわいこと。
全て正直にありのままに書いている。
外の太鼓がうるさいから踏み潰すなどと言い出したりして面白い。
日記を書くとはこういうことだ。
半分はずっと借金の話ばかりでつらいが。

日記は毎日つけなくてもいい。日記に書いた事はその後何年もたった後でなければ自分であけて見るのが気持ちのわるい様な、見るのが恥ずかしい様な又怖い様なことを書きなさい。日記を書く事は専門家でない芸術家が、詩人としてのすべての人間が、自分の芸術と記録とを最もいい読者なる子供に遺すことである。これは最も意味の深い又尊い芸術の一片であり、又芸術そのものである。だから日記をつけなさい。

死ぬる自由が得たい。勝手に何時でも死ねる様になり度い。生が終われば死んでもよし又事によれば自ら死んでもいい様な自由が得たい。私は今其の自由を持っていない。