墓石に、と彼女は言う

彼はいつもポケットにペンギンを入れていた。
大事なものだから、と彼女の制服の胸ポケットにそっとそのペンギンを忍ばせたこともある。
ペンギンには名前が書かれていたので、落としても大丈夫だった。
実際彼女は、一度学校でそれを落として元クラスメイトに拾ってもらったことがある。
ほらね、大丈夫だった。
彼が彼女にあげたものは、壊れた口琴、紺色のマニキュア、出来たてのハンバーグ、変な形の鍵、カニの缶ずめ、薬の名前、粘土で作った目玉焼き、さみしい思い出、それと音楽。

彼は、“絶望”と書かれたプレートを駅前で掲げていた
蛍光ピンクのアクリル絵の具でビニール傘を彩った
AKGのヘッドフォンで音を拾い、道端ですきなときに録音をしていた。
特別な趣味は無かった
彼女はそういう彼を観て、いつもちょっとバカバカしいなと思っていたけれど
けれども彼女はそのとき、少しだけ楽しかったらしい。